なんで、こんなにも気になるんだろう。
 気になって頭から離れなくなった。




 
 
 
Rain.-6-








今日は晴れていた。
梅雨が明けたのだろうか、そんな風に思えてしまうほどの、晴天だ。
昨日も雨だったため、少し蒸し暑さの残る教室で俺は下敷きで仰ぎながら、
いつも通りの授業を受けていた。
――そう、いつも通りの、退屈な。


(あと…20分もある)
ひじを立てあごを支え、時計を横目で見ながら心の中で呟いた。

その時、教頭が教室に入ってきた。
教頭は、授業をしている教師に軽く会釈をし、真っ直ぐこちらへと歩いてきた。
静かな授業だっただけに、何事だ、とみな教頭に注目する。
そして教頭は俺の所―――ではなく、俺の隣の席の、彼女の所へと歩み寄った。

「ちょっと、来なさい。」

静かに、囁くように教頭は言った。
隣の俺でさえ、聞き取るのに困難なほどの、小さな声で。

彼女は一瞬不安そうな表情を見せたが、はい、と小さく返事をし、
おとなしく教頭について教室から出て行った。


「さ、授業に戻るぞ。」

先生が切り替えるように、手を二度叩き、そう言った。
みんなもそんな気にしない様子で、授業に戻っていった。


だけどなぜか気になって気になって、
俺だけが、いつまでも彼女の消えていったドアの向こうを見つめていた―――。




授業が終わり、休み時間になった時、彼女は戻ってきた。
あきらかに、さっきよりも不安な表情を、隠しきれていなかった―――そんな、余裕もないという
ように。
彼女は戻ってすぐにロッカーへ向かい、荷物をまとめ始めた。
――帰るのだ、と悟ることができた。

「…おい、どうしたんだよ。」
「ごめん、後で話す。とりあえず、帰るね。ばいばい。」

それだけを言うと、駆け足で彼女は教室を後にした。


―― 一体、何が起きたというのだろうか。
彼女が体調が悪いというわけではないだろう。だったら教頭がわざわざ呼びにくる理由がない。
…何か、あったのか?
だからといって、俺は彼女の家庭事情など詳しく知るよしもなくて
知ってるといえば両親が小さい頃になくなっているということくらいで

だけど
知りたい、と思う。
不思議な感情が、今、俺の中に湧き上がったのだ。



廊下で、偶然にも教頭に出会った。
俺はすぐさま聞いた。

「あの、菊池…さん、どうしたんですか。」
「あー……あまり、他の人には言うなよ。
 お祖母さんが、倒れたそうだ。さっき病院へ向かったよ。身内は、彼女一人だそうだからね。」
「…で、様態は…?」



「――危ないそうだ。」






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