――その時はただ、嬉しくてたまらなかったんだ。



 
 
 
Rain.-5-





突然、おばあちゃんが買い物へ行こう、と言い出した。
最近は腰だけでなく足も悪くなってきたおばあちゃんが、自分から外へ出ると言ったのは久しぶり
だ。
少しの違和感を感じたけれど、それよりも私はおばあちゃんと出掛けられるということが、
嬉しくてたまらなかったのだ。


「心ちゃん、何か欲しいものがあったら言うんだよ。」
「どうしたの、急に。買い物に行こうなんて言ったり、何でも買ってくれるなんて。」
「昨日、昔隠しておいたへそくりを見つけたんだよ。だから、何か買ってあげようと思ってねぇ。
 最近、足腰の調子も悪くないから、たまにはいいかと思ってね。」

そう、おばあちゃんは笑って言った。その影に、寂しそうに笑う様子も見えた。


その日は、楽しくお喋りをしながら、ショッピングをして過ごした。
ちょっとおしゃれなカフェに寄ったりして、大きなパフェを食べた。
おばあちゃんはお茶だけだったけれど、ずっと笑顔で私の話に耳をかたむけていた。


いつも通りの明るい商店街、人々のにぎわいが聞こえる。


「心ちゃん、最後はあそこに入ろうか。おばあちゃん、欲しい物があるんだよ。」

可愛らしい雑貨屋さんを指差して、おばあちゃんは言った。

「うん、いいよ。」

店に入って、おばあちゃんはまっすぐ進んで行った。欲しいと言っている物に向かって。
…何を、買おうとしているのだろうか。

「心ちゃん、これ、可愛いでしょう?おばあちゃんね、前からずっと欲しかったんだよ。
 心ちゃんも買わないかい?おそろいで付けましょうよ。」

若いころに戻ったようにおばあちゃんははしゃいで、手に取った物を見せてきた。
それは、決して本物ではないけれど美しく光り輝いた小さな宝石のはめられた、
実にシンプルな銀色のペンダントだった。
私が身に付けても、おばあちゃんが身に付けても、違和感など感じない物。

「わ、可愛い!いいじゃん、おそろいって。買おう?」
「ふふふ、そう言ってくれると思ってたよ。」

その笑顔は、とても温かいものだった。


だから私も嬉しくなった。
そう―――その時はただ、嬉しくてたまらなかったんだ。






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