「……かみ、さま?」
「そう、神様。」
何を言い出すかと思って、からかってやろうかとも思って
彼女へ振り返ってみたけど、こいつの顔は真剣だった、予想以上に。
「…なんで、そんなこと聞くんだよ。」
「いいじゃない、聞いてみたかったんだもの。」
「―――神様、ねぇ…。」
なんで、急にそんなことを言い出したか、彼女の心中は読めなかったが
真剣に考えようと思った。
…俺は、神様を信じているか?
そう聞かれれば、Yesでも、Noでも嘘になる気がする。
たいてい、人間ってものはこうなんじゃないか?
都合の良いときだけ神にすがり、自分に都合が悪くなったら、神へ怒りをぶつけ。
そんな感じだな。
俺もその一人になると思う、から。
「信じるときは、信じるな。」
上手く言えねぇから、これが精一杯。
彼女は俺の言葉を聞いて、優しく微笑んだ。
そして静かにこう言うのだった。
「―――私はね、信じてないんだ。」
あまりにも悲しそうに言うから、気になってしまう、不思議と。
―何故?―
今なら、何を思っているのか、とか、彼女の本当の姿がわかるかもしれない。
帰る準備として、背負ったリュックを自分の机に下ろし、尋ねてみた。
「なんでだ?」
「――裏切られるのが怖いから、ていうか、裏切られるの悲しいから…悲しかったから。」
「………かった?」
「あ、知らない?知らないか。
私ねー、両親いないんだ。ちっさい頃、死んじゃって。」
「………………ふみきり…か……」
「そうそう、知ってるんじゃん?ふみきりの近くでね、二人とも、ひかれちゃった。
原因はなんだっけ、詳しく聞かされてないから、よくわかんないや。」
―やっぱり、あれはこいつだったのか。
ふきみりに供えてる花は、献花だったんだ。
両親への―――……。
「こんなこと、他人に話すのは初めてなんだけどさ、あの時、私ずっと待ってたんだよ。
言ったもの、お母さん、いい子にして待っててねって。
――だけど」
そうやって一息ついて、彼女は上を向いて言う。
「帰ってこなかったんだよね、二人とも。」
「…………。」
「あの時はねー今までにないくらいいい子で待ってたよ。
そうしなきゃ、なんだか本当に帰って来ないような気が、してたんだ。」
不自然なくらいに、明るく話す彼女は、とても悲しそうに見えた。
そんな風に、話す必要なんて、ないのに。
馬鹿みたいよね、なんて笑いながら言って、彼女もまた準備をし始めた。
静かな教室に、机のかすかに動く音と、外の鳥の声が響く。
「―――なぁ、なんでそんな話、俺にした?」
「…そんな話?酷いなぁ。」
「…あ、悪ぃ。なんていうか、こんな大事な話?人にはあまり話さねぇような話を。」
「…さぁ、なんでだろ。
あんたなら、話して良いかなって思ったし、…話したかったから、かな。」
そうやって微笑んで、鞄を背負い教室を出ようとする。
なんでか、魅せられてしまうのだ。
彼女の笑顔に。
なんて優しく、温かく笑うんだろうって。
そして、その内側に、いったいどれほどの苦しみを抱えているのだろう。
…俺は、その背中を追うことしかできなかった。
------------------------------------------------
← ◇ →
|