小さい頃からお父さんに呪文のように言われていた。 「嫌なことがあっても、その分だけいいことがあるよ。」 ――だから、どんなことがあっても前を向いて、負けずに頑張るんだよ。 あのときからも、何があっても頑張ってきたのに いくら頑張ってもいいことなんか起こらないのはどうして。 |
Rain.-3- |
――――神様は、皆に平等で、不平等だ。 いつかいつか、幸せが訪れるなんて希望、私にはもう欠片もなくなってしまったような気がする。 空が青いのも、私が此処にいるのも 決められた運命というレール上に乗ってしまったからなのだ。 変わることはないんだ。 「ただいまー。」 「あら、お帰りなさい。遅かったねぇ。」 「日直の仕事で残ってたのよ。今週ずっとなんだよね。」 「大変ねぇ、お疲れ様。夕飯もうすぐできるからねぇ、今日は肉じゃがだよ。」 「やった、おばあちゃんの肉じゃが大好きーv」 「手ぇ洗っていらっしゃいねぇ。」 「はーい。」 肉じゃがということを考えると、自然と足取りは軽く、速くなる。 楽しそうに作るおばあちゃんの姿を横目で見ながら、私は洗面所へと向かった。 両親が二人ともいなくなったあとは、私はおばあちゃんに引き取られた。 おじいちゃんは私が気に入らなかったのか知らないけれど、 私が引き取られてからすぐに、外国に放浪へ行ってしまった。 ばあちゃんはもうひとりじゃないから大丈夫、といって。 今ではもう連絡もなくて、生きてるかどうかもわからないみたいだけど。 母方の祖父母なんて、私あまり関わりがないし、今どうしてるかなんて知らないから 私の家族はもうおばあちゃんだけだと思ってる。 ―――もし、おばあちゃんが…とか、考えないわけじゃないけど 考えると怖くて怖くてたまらない。 私の頼りはもう、彼女しかいないのだ。 ―――ただ、最近、おばあちゃんの調子が良くない。 よく咳き込むようになったし、前よりも歩くのが辛そう。 外に出ることも、少なくなったかもしれない。 だから私は、負担を少しでもかけないように、朝は全て自分でやり、 おばあちゃんの分まで、朝ごはんは作っておいてあげる。 そんな生活も当たり前となって、染み付いていった。 ―――此処が、私の故郷なのだ。 水が、落ちる。 重力にしたがい、ただ、下へと。 音がする。 ザーザーと、その音はまるで雨のように 水道にたまっていく水を眺めた。 あぁ、水は綺麗だな、なんてぼんやり考えた。 どこまでも透き通っていて、それでいて透明で。そして命に命を与えるのだ。 ふと思い出す、さっきのこと。 日直の仕事で、隣の席のあいつ――――そう、和井元輝(かずいもとき)と二人で放課後残っていた時のこと。 「ねぇ、神様って信じる?」 帰り支度をする彼に、ひとりになりたくなくて、とっさにかけた言葉だった。 ------------------------------------------------ ← ◇ → |