[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
「今日は先帰ってろ!」 約束もしていないのにいつしか一緒に帰るようになってた元輝が そう言って早足に校門から出て行った。 |
After the Rain.
-前編- |
「――菊池、心さんですか?」 玄関で鍵に手をかけていたところで、一人の女性に声をかけられた。 見上げると私より少し背の高い、長い髪が茶色く印象的な、綺麗な人だった。 …誰だろう。 「はい、そうですが…どちら様ですか?」 「申し遅れました。私、数井元輝の母です。」 「―――――え」 …すごくびっくりした。 もう元輝と出会って二年になるけれど、彼の家族を見たのはこの人が初めてだし、 それに…ずいぶん若いように見える。 …ていうか、何しに? 「元輝くんは…今日は一緒じゃないですけど…。」 「いいの、あなたに用があって来たの」 …私に………? 「あ、じゃあ立ち話も何なので、どうぞ」 「いいえ、此処でいいわ。すぐ終わるもの」 ―――何…? 元輝に似た、こげ茶色の瞳が私を強く見つめる。 私は緊張感を抱きつつも冷静を装い見つめ返す。 「ここ2年間、あの子はまともに家に帰って来ないわ。帰ってきたとしても、 いつも遅かったり、朝だったりするわ」 「……………」 元輝は帰らないのは、うちに来ているからだ。 それで彼女がうちに来たということは、そのことを知ってるからだろう。 「…今あの子にね、大学推薦の話が来ているのよ」 「―――――――え?」 「でも、全く勉強している様子もないし、成績も少し下がり気味だわ」 …確かに彼は、本当に毎日うちに来てくれる。あの日から、ずっと。 夜遅く、私が寝付くまで居てくれたり、泊まっていって朝方帰ったり、と。 だけど、そんな話が来ていることなんて、知らなかった。 「元輝のこと、想っていてくれてるのは嬉しいわ。 だけど、本当にそうなら―――――言いたいこと、わかってくれるかしら」 「……………」 この2年間、私はずっと甘えていたんだ。 気になってはいたんだ。こんな状況、このままでいいのかって。 そう想っていても、やっぱり離れたくなくて、 元輝の優しさが、嬉しくて―――甘えていたんだ。 私という存在が、彼の重荷になっていることにさえも、気付かずに。 きっと元輝だって、同情して切り離したくともそれができないんだわ。 だから 私が、私から、もう解放してあげなくちゃ―――。 「ただいまー」 元輝が帰ってきた。 いつもこうやって此処に来る。 “ただいま”というたった4文字の言葉が、本当の家族になれたような錯覚を起こさせる。 それがずっと、嬉しかったんだ。 「遅くなってごめんなー「元輝」 元輝の言葉にかぶせ、遮るように、彼の名前を呼ぶ。 「何だよ、どうした?怖い顔して」 …元輝の、ためなんだから。 「―――――――…っ」 いわなくちゃ 「心…?」 いいたくない 「でてって」 「……は?」 「私は大丈夫だから、いつまでも子供扱いなんてしないで。 元輝が此処にいなきゃいけない理由なんて、どこにもないんだから!」 いやだよ 「…心、どうした?」 元輝が不安げに私の顔をのぞいてくるのがわかる。 だけど私は元輝の顔なんてもう見れなくて、俯いて堪えるしかなかった。 今私が放った言葉に対する自己嫌悪、ココロの中でイヤだと叫ぶ私自身に。 それでも私はまだ言いたくもない言葉を口にする。 「毎日毎日来られたって、迷惑なのよ!同情だけで、傍になんていてくれなくった っていいのよ!可哀想だなんて思わないで!」 「…心…おい」 「でてってよお……っ」 私は夢中で元輝をドアのところまで押し出す。 お願いだから、早く出て行って。コレ以上、思ってもいなかった言葉まで、言いたくないの。 もっともっと貴方を傷つけてしまう前に、早く。 「……心、じゃあ何でオマエ、泣いてる?」 「――…っ」 言われて初めて気がついた。私は涙を流していた。 嫌なんだ。身体は正直に、嫌だと言っているんだ。 「――っ泣いてなんかない!いいからもう、早くでてってよ!」 「心っ!?おい!?」 バタンッ 私は元輝を力強く外へ押し出し勢いよくドアを閉めてその場に座り込んだ。 私のあんな力でどうにかなるようなヤツじゃないのに。 ――どこまでも、アイツは優しいんだ。 そう思ってまた涙が出た。 |