「……心…。」
元輝が、私の名を紡ぐ。
涙が溢れ出る目をこすって、元輝を見上げようとした瞬間、もう貴方は見えなかった。
代わりに、寒いはずなのに――いや寒いから、だから温かいのかな?そんな貴方の腕の中に、
私はおさまっていた。
「…もと…き……?」
何が起こったのかよくわからなくて、何でこんな風になってるかもよくわからなくて
おぼつかない口取りで問いかけた。
「――泣けよ…。」
「………え……」
「んなこと一人で溜め込むなよ馬鹿。泣きたいときは泣いていーんだよ。」
「…………っ」
「こーゆう時は、誰かに頼ってもいいんだぞ?」
「………っう…く…っ」
少し私から身体を離して、顔を覗き込んで来る元輝の首に手を回して思い切り抱きついた。
優しい、いつもより優しい響きを持った声は、私の耳にすぅっと染み込んで行って
心の中に、温かなぬくもりを覚えて
私は泣いた。
怖かったの
ずっと怖かった
だけど貴方は気付いてくれたんだね?
私の心の中、助けてくれたんだよ。
だから、だからありがとう――――。
それから、どれだけ時間が経ったのだろう。
凄く長く感じられた。だけど本当は短かったのかもしれない。
実際のところよくわからないのだ。
だけど、雨は上がっていた。私の涙の雨も一緒に。
「…おまえどうすんの、これから。」
「とりあえず家に帰ろ?雨上がったし。いい加減寒い。」
「…あっためてやってんじゃん。」
「そろそろ冷たいよ。あんたも、私も。」
「ていうかそうじゃなくてだな、これからっていうのは…ほら、生活のことだよ。」
「……一人ぼっちだねぇ。」
「寂しいか?」
「………別に。」
「素直になれよ。」
「………………寂しいです…って、でも仕方ないじゃない!」
「そーか、寂しいか。」
「…なによ…。」
「じゃ、俺が一緒に住んでやるよ。」
「………………………はっ!?」
何を言い出すんだ、と私は顔が途端に赤くなっていった。
そんな私の様子を見て、元輝は口の端を吊り上げたのを、私は見逃さなかった。
「……なに笑ってんのよ―――って、きゃあっ!?」
突然視界が変わって、私はコイツに抱き上げられたことに気付く。
それはお姫様抱っことか、そんなロマンチックなものではなくて、ただ腰を持ち上げられ、
担がれたような状態だ。
元輝の顔は見れない。背中しか見えないのだ。
支えられてるのは膝の裏と腰だけで、これは持ち上げられてる方とすれば、怖くてたまらない。
「ちょっと…っ!何のつもりよっていうか怖い!怖い怖い!」
「お姫様を家まで運ぶのでございます。」
「お姫様って誰よ!あんたキャラ違くない!?」
「…別に。なんか開き直りたくなっただけだよ。」
「……意味わかんない…っ」
じたばた動くと身体が揺れて余計に怖い。だからおとなしくするしかなかった。
私が暴れるのを止めると同時に、元輝は言葉を継ぐ。
「――別に、住み込みって訳じゃねぇけど。だけど、なるべく、行くようにするから。」
「…………なにそれ。」
「――ひとりになんて、させない……させたくねぇから。」
「……………………」
「ついでに、俺が18になったら、結婚、な。」
「…………は?」
「は?とは何だ。一世一代のプロポーズってヤツだぞ。」
「……なんか、順番間違えてない?」
「順番〜?」
「なんか、飛びすぎ。大事なこととか、いっぱい抜かしてる…。」
「まぁ、それは追々つぶしてくってことで。」
「…片付け作業ですか。」
「とにかく、予約な。」
「…何が。」
「おまえの隣」
かぁーっと、熱がまた、上がっていく。
何よコイツ。キャラ違う、絶対に違う違う違う!
嬉しくなるようなこと、いっぱいいっぱい言っちゃってさ………。
そして気付く。
否、とっくの昔から気付いていたのかもしれないけれど、どこか自覚してなかったんだ。
今更、自覚するなんて。…ちょっと遅いかな。
今は背中しか見えない。
だから向こうの顔も見えない。私の顔も、見られない。
少し身体を起こして、耳元で囁く。
「ねぇ」
「あん?」
「…好き」
「俺も。」
「両想いだー。」
「一個進んだな。」
「進んだ?」
「結婚へのステップ。」
「…馬鹿じゃないの。」
「何とでも。」
ひとりが、怖かった。
毎日怖かった。誰も気付いてくれなくて苦しくて、悲しかった。
だけど
貴方は気付いてくれたの。
私の、小さな小さなSOS。
「…気付くの遅かった、私。」
「何が。」
「あのね」
「うん」
「ありがとう」
これはね、ずっとずっと言いたかった言葉。
何度言っても足りないから、これからもずっと、貴方に贈ります。
“ありがとう”
Fin. 2006.08.30
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← ◇ →
本編完結です。
ここまで読んでくださってありがとうございます(^^)
改めて、別に内容は変えてないんですけど、レイアウトだけ
変えました、自己満足です、ハイ。(笑)
なんだかこの作品は、自分の中で、なんだろう…、
すごく昔に書いた作品なのに、捨てられないいつまでも。
ある意味処女作です、自分が認めた、という意味で。
知らない方から感想をいただけたのも、この作品が初めてでした。
なので大好きです、という訳で、ちょっとお洋服着せてみましたな感じで!
ありがとうございました!
番外編もあるのでよかったら覗いてやってください。
(2010.08.18 紫雨)
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