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空からのオクリモノ -a present from the sky- 第5話
コンコン  ノックの音がして、部屋のドアを開けた。   「優子さん。どうしたの?」 「ぶーちゃんが…、ぶーちゃんが居ないの!!」 「!?」 「お父さんが外で見かけたらしいの、でも散歩中だと思って放っといたんだって。今日…お散歩まだよね?」 「してない…」 「家のどこにもいないし…」 「見たってどこで!?」 「××公園って言ってたわ」 「―――行って来る!!」  私は上着をひっつかんで、家を飛び出し、××公園まで全速力で走った。  公園には誰も居なくて、ぶーちゃんの姿もどこにも見えなかった。 「ぶーちゃん……、」  今まで、家出をしたことは一度も無かったのに、どうして。 ぶーちゃんは、大切な大切な、私の家族。 (また…………?)  ――また私は、大切な存在を失うの? 「やだよ、返してよ… もう何も、これ以上失うのは嫌…」    溢れ出しそうな涙を堪えながら、私は空に向かって叫ぶ。 「私、何でもするよ 優子さんにもちゃんと謝る、素直になるよ」  ――――だから、 (お母さん、中井、ぶーちゃん)  もう居なくならないで―――――。                     「…やっと言った。」  溜息混じりの声が、空から降って来た。振り返ると、公園の土管の上に立つ――中井が居た。 「――な、か………い……?」  何が起こっているのかわからない。ただ私は呆然と、彼を見上げることしかできない。  土管から軽い足どりで地面に着地した彼は、悪戯に笑ってブイサインをした。 「ただいまー、なんつって――ぇ!?」  気付いたら私は、そう言って笑う中井に、飛び付いていた。そのまま私たちは、後ろに倒れ込む。  ゴツって言う、多分中井の頭が土管に当たったのだろう凄い音がした。   「ってぇ……すみれ何すんだ―――って、すみれさん泣いてる!?」  私を抱き留めてくれた彼は、私の涙に気付いて慌てふためいていた。 「――良かった…、夢じゃなかった。本物だよね…?」  中井とのことは、夢なんじゃないかって思ってた。でも、たとえ夢でも、私の中に生まれた想いは確かなモノ だと、吉岡のおかげで自覚することが出来た。  だけど今、目の前に彼は居る。  今度はきっと夢じゃない。彼の頭は凄い音したし、痛がってたし、私も少し痛かったもの。      私は涙を腕でぬぐって、ぱっと顔を上げて、彼を見た。 「ちゃんと説明してよね。“やっと言った”って何?」  そう言った私を見て、彼は一瞬キョトンとして、そしてすぐに、吹き出した。   「――ぷっ」 「ちょっ、何で笑う!?」 「いや、…切り替え速いなーと思って。珍しくしおれたかと思ったら。」  と、彼は優しく笑いながら、私の頭をくしゃりと撫でた。  今までされたことのない仕草に、少し胸が高鳴った。 「…まあ、話せば長いんだけどさ。要するに…」  ゆっくり、中井は話し出した。     「すみれと優子さんを、仲直りさせたい人がいた訳。  その人も、オレと同じ死人で、その世界ではオレよりも1年後輩で――
―――1ヶ月程前 『あら…っ、もしかして中井君!?』 『…そーですけど、アンタ誰ですか…』 『ちょうどいいわ、貴方、一緒に行きましょ♪』 『は?行くってどこに…』 『地上よっ』 『!?』 『裏ルート、見つけたの。二人で同じトコに行くのが条件なんだけど』 『まじっすか…?』 『大マジよっ!』 『地上のどこに、行くんですか』 『花王すみれのトコロよ』 『……!!』 『それで貴方にお願いがあるの。この子と、その母親がね――』
『仲直り、するようにってね』 「!」  声が、聞こえた。  今まで、何度願ったか知れない。会いたくて、名前を、呼んで欲しくて―――。  私は恐る恐る、声のした方を振り返る。 「―――おかあ、さん……?」  そこには、薄い光に包まれ、宙に浮かぶお母さんが居た。  容姿はあの頃のままで、栗色の髪の毛が、太陽に透けて光っている。彼女は、優しく微笑んだ。 『すみれ、元気?』 「ほ……本物?」 「ぶ~」 「!ぶーちゃんまで…」  ぶーちゃんはお母さんに抱き抱えられていて、私の言葉に頷くように声を発した。  さっぱり訳がわからない。 「何が……起こってるの?」
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