空からのオクリモノ -a present from the sky- 第4話
「――すみれちゃん!」  そのまま家に戻った私のすぐ後に、優子さんもドアを開けて家に入ってきた。   「学校から連絡あって……心配してたのよ」  呼吸が少し乱れている。走って、私を捜していたのだろうか。私を見て、酷く安心したようだ。 「すみれちゃん、何か…あったの?」 (何が、あったんだろ…)  中井が、居ない。  どこにも居ない、みんなの記憶からも消え去って――まるで最初から居なかったみたいに。  それとも、本当は5年前に中井は死んだのに、それでも忘れられなかった私が、みていた夢だったのかな。  全部ぜんぶ、夢だったんだ。 「――優子さんには、…関係ないよ」  私はそう冷たく言った。傷付いてる彼女を見ないようにして。  私は、  これからどうすればいいんだろう―――。
*  *
「すみれ」  翌朝、靴を履いている時に、後ろから呼ばれた。振り返ると、そこには父さんがいた。 「オマエ、また優子に何か言っただろう」  昨日のことだろう、とだいたい見当がつく。  父さんは、優子さんのことを、“母さん”と呼ばないで、名前で呼ぶ。どうしてかは知らないが、それさえも 私をイライラさせる。 「あんまり悲しませるようなことするな。母親だろう」 「……お母さんは、お母さんだけだよ。あの人は、母親じゃない」  そう言って、私は家を出た。            
「本当にそっくりだなあ。意地っ張りなところが昔の母さんに」  すみれの父は、やわらかい溜息と共に言った。       『―あら。私あんなに強情だったかしら?』  彼の後ろで、笑いながら言う女性は未来――すみれの母親だった。 「自覚なかったのか?」 『ひどーいっ!』  クスクスと、二人は笑う。 『あの子はね、キッカケを探してるだけなのよ。本当は素直になりたいんだから。』  意地っ張り同士だからわかるわよ?と、ガッツポーズを見せる。  その姿がまた幼く見えて、彼は微笑んだ。   「さて、どうしたものかね、母さん」 『もう打つ手は考えてあるわよっ』 「お、何だ?」 『そうねえまず……、ぶーちゃんは、どこにいる?』
「すみれ!?」 「美和ちゃん、おは…「あんた昨日どこ行っちゃってたのよ!?心配したんだから!」  美和は息を切らしながら言った。そういえば私、昨日あのまんま教室出たんだっけ。 「ご、ごめん……」 「吉岡に話したら、もうすんごい心配して大変だったんだから!後で一言ゆっときなさいよ?」 「吉岡?」  吉岡まで、心配してくれていたのか。私、何も考えずに大変なことをしてしまったんだと少し後悔した。 「――花王!」 「あら、噂をすれば♪」  美和は嬉しそうに言う。それがどうしてかは、分からなかったけど。       「吉岡、おはよ。あ、昨日はどうもご心配を…」 「―――良かった…。本当、焦った…」 「本当、ごめん。吉岡にまで、余計な心配をすみません…」  辺りを見渡すと、隣にいたはずの美和はなぜかいなくなっていた。 「花王、オレさ」 「うん?」 「知ってると思うけど、おまえのこと…すきなんだ」 「………え」  話の雰囲気が一気に変わって私は驚いた。そしてあとから、恥ずかしさがやってきて、顔に熱が集中する。 (吉岡が、私を――?てか、知らないよ!?)  美和や鈴はよく吉岡のことについて突っ掛かって来た。それは、吉岡の気持ちを知っていたからだったのだろ うか。 「付き合って、欲しい」  吉岡は静かに言った。 (待って待って…っ)  吉岡のこと、そんな風に考えたことがなかった。友達だと思っていた。  頭の中はがぐちゃぐちゃになる。  どうしよう、何か言わなくちゃ。でも、何て言えばいいんだろう。  考えれば考える程、脳裏に浮かぶのは、中井の姿だ。 「―――ごめん」  私は俯いたまま、声をしぼりだした。     「すきな人がいるの。…もう、届かないかもしれないけど…」 (私、こんな時に気付いた――)  拳をぎゅっと、にぎりしめる。     「だから――――ごめんなさい」  私は昔のこととか関係なくて、今の中井がこんなにも、すきだったんだ。
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