空からのオクリモノ -a present from the sky- 最終話
 状況についていけない。  中井も、ぶーちゃんも、お母さんも。どうして皆居るの? 『若い子の魂ってね、純粋で力を持ったままなの。だから彼は生きた姿で、一時的に生活できたの。  だけどいつまで経っても、私のお願いしたことやってくれないし。』 「アンタの説明がアバウトすぎなんだよ。突然言われて、簡単に出来る事じゃねぇだろ」 『で、何だか私の正体に気付いちゃったみたいだから、つまんなくって連れ戻しちゃったの。もちろん、皆の記  憶から消してね』  と、彼女は明るい調子で、テンポ良く説明していく。イマイチ私はついてけてなかったけれど。 『つまりは私が、すみれが優子さんに対して素直になってもらうための、ちょっとした演出だったのよ』 「演出……?」 『そう。お父さんにも手伝ってもらったのよ。ぶーちゃん誘拐とか』 「え…!?  お母さん…父さんに会ったの?」  父さんは、優子さんと再婚した。お母さんはそれを知って、どう思うの――――?  お母さんを忘れて、簡単に再婚なんて言い出した父さんが許せなかった。そんな父さんを、母さんはどんな風 に思うんだろうって、ずっと怖かった。 「……すみれ、お母さんはね  すみれが幸せでいてくれれば、それでいいのよ?」  私の額に、お母さんは手を近づける。一瞬、彼女の手が光って、私は目を閉じた。  すると脳に映像が流れて来た。
 映っているのは、父さんとお母さんだった。 『――ねえ、一つ聞いてもいい?』 「なんだ?」 『今更、妬く訳じゃないけど…再婚の理由は?すみれ反対してたでしょう』 「――ああ、それは…」  父さんが、笑った。優しく、あったかい笑みで。  私の見たことのない表情だった。 「―――すみれには、お前みたいな母親が、必要だろう?」
『――だから、優子さんを認めてあげて? そんなことで私は、怒ったりしないわよ?』  静かに目を開けると、涙が、零れ落ちた。  幼い頃、されたみたいに、頭を撫でられた。   『でも大丈夫よね。 素直になるって、言ったもんね』  コクンと私は頷いた。        ―――――私は、大きな思い違いをしていた。  お母さんは可哀相なんかじゃなかったし、父さんも母さんのこと忘れてなんかいなかった。  意地を張っていたのは、本当に私の方だった。 「…あ、そうだ。中井はどうなるの?」 『生き返ったわよ?』 「ど、どーやって…?死んじゃったんだよね…?」  ふわりと、お母さんが微笑んだ。優しく、だけどどこか寂しいような笑顔で。  『――今後一切、私が地上と関わる権利との、引き換えにね』  風が吹いて、ザア、と木々達が音を立てる。  彼女を包む光たちが眩しさを増す。  それでも彼女は、微笑んだままだった。 「―――――っ!!」 『ごめんね。早くにいなくなって、たくさん寂しい思いさせたよね』  私はふるふると首を振った。 『だから――お母さんから、最期の贈り物。 でも大丈夫。消える訳じゃないもの。』  涙が溢れ出して止まらなかった。最期の言葉みたいで、嫌だった。だけどわかっていた、コレが最期なんだっ てこと。 『―――お母さんは、  ずっと空に、居るからね―――』  光は彼女を包み込み、空へと消えていった。 「……不思議。涙は涙なのに……、こんなにも、嬉しいなんて――」 「………うん」  中井にゆっくりと抱き寄せられ、私はしばらく泣いていた。彼から伝わる、確かな温度を感じながら。 「…中井」 「ん?」 「戻って来てくれて、ありがとう」  涙を拭って私は笑った。   もう大丈夫、私、前に進めるよ。
*  *
―数週間後― 「すみれちゃん忘れ物!」 「きゃーっごめんありがとう!  花王家の朝は少し騒がしかった。 「―――っていうか、“すみれちゃん”。また“ちゃん”ついてるよ、お母さん?」 「ごめん…クセで」 「何回目〜?もーそろそろ罰金とろうかなあ?」 「!?…罰金!?」 「いってきまーす」  笑いながら彼女に手を振った。  彼女もまた、少し照れながらも、嬉しそうに笑っていた。それを見て、私もまた微笑む。 「すみれ!」 「あれ、父さん?」  少し歩いたところで、私より後に家を出た彼が駆け寄って来た。 「な、そろそろ本当のこと言ってくれないか?」 「………またその話?」  お母さんがいなくなってから――私が優子さんを“お母さん”と呼ぶようになってから――父さんは同じこと ばかり聞いてくるのだ。  お母さんは最期に、父さんに対して何か言ってなかったかって。 「何度聞いても答えは一緒ー!」 「いやいやそんなハズはないだろう、何も言わずに勝手に帰るなんてひどいだろ母さん〜!」 「だいたい何でお母さんの話ばっかするわけ?今まで全くしてくれなかったクセに!」 「そ、それはだな…」  少し照れたように、父さんはこう言った。   「…俺が母さん離れしないと、お前がいつまで経っても優子に心開けないだろう?」  だから父さんだって…と、彼は呟いた。  そんな様子を見て、私は笑いながら冗談まじりに答えた。 「んー、気持ちはわかるけど…、なかったことをあるとは言えないよ」 「!?」  前に進んでみたら案外、知らない感情がたくさん見えてきた。 「すみれ、おはよ」 「おはよー、中井!」  中井は私のアパートの隣の部屋ではなく、少し離れたところで、改めて一人暮らしを始めた。  あの日からまた、一緒に登校してる。     「課題やったー?」 「睡眠3時間!どうだおそれいったか!」 「得意げに言うことじゃないし!じゃあ授業は爆睡だね」 「それはいつものことだ。しばらく勉強なんて縁なかったからさ〜もう異国語みたい。すみれ教えてよ」 「カテキョ料、1時間5000円でどうかしら」 「たっけえ!ぼったくりだろ!」  夢なんかじゃなかった。  中井はもう、私の隣に居るよ。                      迷い立ち止まったときは、空を見上げればいい。  私の天使が、いつでも微笑んで、見守ってくれてるから。                        <終> 2009.01/12
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あとがき ↓ ここまで読んで下さり、ありがとうございました! このお話は、私が中学生の時に書き終えたマンガでした。 (そして書き始め小学生…) それを、小説をweb上で書くようになり、小説化してみたり、 もう一度、見つめなおしてマンガにしてみたり、 そしてやっぱりちゃんと、文章にしてみたいと思って書き上げました。 設定も、こういう流れの中でたくさん変化したので、 コレが最終形です。しばらくこのままで落ち着こう…。 主人公たちの年齢も、私とともにあがってます。 当初は中2設定でしたが、今は高1設定のはず。 本当に最初は、何もテーマも考えず、行き当たりばったりで進めたものだったのに よくここまで来たもんだ(笑) 私と一緒に、成長してる、なんだか思い入れの強い作品だなと改めて思いました。 そんなつたないお話ではありましたが、 ここまで読んでくださった方がいらっしゃったら本当に感謝の気持ちでいっぱいです。 ありがとうございました!