空からのオクリモノ -a present from the sky- 第3話
―バレンタインデー当日― 「――――、あれ?」  家を出たところで、違和感を感じた。中井が、居ないのだ。   「いつも此処で私より早く、待ってるのに…」  中井が現れてからは、毎朝のことだったが、約束をしている訳じゃないので、そのまま行くことにした。 (なんか、恥ずかしいし、チャイム押すの)  一緒に行くこと期待してるみたいで、なんだか悔しく思えた。  一人で歩く学校までの道のりが、ずいぶん長く感じられる。         (……変なの、寂しいなんて) 「すみれーっ」 「美和ちゃん。おはよー」  教室に入ったところで、美和に声をかけられる。   「すみれ、チョコ作ってきたー?」 「あ、えっと、うん!はい美和ちゃん、ハッピーバレンタインデー♪」  友チョコ用のクッキーを鞄から取り出し、美和に渡した。   「……アレ、一個包み違うね、誰の?」  美和が私の鞄を覗き込み、一つラッピングと大きさの違う物を指差した。  それは中井用のチョコケーキだ。 「あ、コレは――――…」  中井の、と言おうとして、隣の中井の席を見た。中井の鞄はあるかな、と思って。  しかし、私の席の隣に、机は無かった。 「……………美和ちゃん、中井の机は?」 「中井?だれ?それ」  どういう、こと? 「な、何言ってるの、中井だよ、中井健一!1ヶ月前、転入してきたじゃん!」 「……?」  美和は、本当に分からない様子だった。私を、からかっている風でもなくて。 「おはよ〜、…どしたの?」 「鈴ちゃん!鈴ちゃんはわかるよね!?」 「な、何が?」 「中井って人、最近転入してきた?って、すみれが言うの」 「……知らない、だれ?」  目の前が真っ暗になりそう。何かで頭を殴られたような衝撃が走る。       「…すみれ、大丈夫?」  心配そうに私の顔を二人が覗き込む。それさえも、周りの音もみんな、遠くなっていく。  何が、起こっているのか? 「――――――っ!」 「すみれっ!?」  私は居ても立ってもいられなくなって、教室を飛び出した。 そしてアパートに向かう。中井が居るハズの、 アパート。きっと中井はまだ寝ていて、寝癖のまんまで、おはようって笑うの――。 「中井!中井いるんでしょ!?」  203号室のドアを、勢いよく叩いた。ドアのぶに手をかけると、ドアは開いた。 (開いてる…) 「中井………?」  そうっと、中を覗き見た。  部屋は静まり返っていて、靴は一足も見えないし、なによりも (人が住んでた、様子がない……!)  次から襲ってくる不安を、首を振って追い払う。  だっておかしいもの。どうして中井は居ないの? 「――すみれちゃん、どうしたんだい?」 「……大家さん!」  騒ぎを聞き付けてか、下の階に住む大家のおじさんが私の後ろに立っていた。 「大家さん、ココに住んでた人、どこ行ったか知りませんか―?」  私の問い掛けに、彼は首をかしげた。 「……203号室に?此処は1年前からずっと空き部屋だよ」  ―――――どうして?  私は大家さんの答えに、言葉を失いただ立ち尽くした。
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