空からのオクリモノ
-a present from the sky-
第2話
何だかよくわからないまま、私は中井に言い負かされて、一緒に行くことになっていた。
「――あ、そうだ名前。何で知ってる…の?」
“すみれ”と、さっき確かにそう呼ばれた。
目の前にいる中井は、私が好きだった中井にそっくりだし、名前だって一緒だけど……彼は死んだはず。
だからこの中井はあの中井じゃなくて―――とにかく名前、教えていないのに、知られていることが不思議だ
ったのだ。
「?すみれだって知ってるじゃん。オレの名前」
「そ、それは当たり前でしょ!?自己紹介!」
「――オレだって知ってんの、アタリマエでしょ?」
「なに……」
中井の言っている意味が、わからなかった。
アタリマエというのは、つまり…
「……ね、ねえ、中井は本当に……あの中井なの?」
「――どういう意味?」
「だってあの時、中井は死ん――――「すみれーっ!」
確信を得られるかもしれない、言葉を言おうとしたその時だった。
後ろから、美和と鈴、少し後ろに吉岡の3人が歩いて来ていた。
「おっはよ〜っ!」
「お、おはよ…」
「アレー、中井君?」
二人は私が中井と一緒に来たことに驚きと興味があったようで、そのまま中井と話しながら歩いて行く。
「……花王、アレ誰?」
「吉岡」
少し眠そうに吉岡は、中井を指差して問う。吉岡はクラスが違うから、中井を知らないのだろう。
「転入生だよ。うちのクラスの」
「ふーん…
一緒に登校って、知り合いなのか?」
「や、知り合いじゃあないよ。たぶん……」
それはこっちも聞きたいことなので、曖昧な答えになってしまった。
「たぶんって何だよ、たぶんて」
「た…たぶんは多分だよっ!」
そこに突っ込まないでーってトコロに突っ込まれて、私は少し焦る。それって余計に怪しいんだけど。
吉岡は、意味わからん…と呟いていた。
「すみれ。オレ職員室寄るからさ、先行くわ。じゃ」
中井はこっちを振り向いて、手を軽く上げて言った。
(―――話、まだ!)
終わっていない。私は慌てて中井を止めようとした
「ちょ、ちょっと待って!
―――あの、さっきの……」
「―――何?」
(………アレ?)
「………………何でも、ない。」
なんでかあの時、中井の表情を見て、言葉が出なかった。聞いては、いけない気がして。
中井とはこんなノリで自然と仲良くなっていき、中井がどの中井だって、私にはどうでもよくなっていた。
* *
「――そういえば」
あれから席替えがあり、私は中井の隣の席になった。放課に、彼が話し掛けてきた。
「もーすぐバレンタインだな」
「あー、そういえば!」
「忘れてたのかよ…女子だろオマエ」
「うん、すっかり」
「去年は吉岡とかにあげたのか?」
「や、去年は友チョコオンリー(もらう専門の)」
「ふーん…」
(そっか、今年は中井がいるんだ!)
私はそのことに気付いて、自然と笑みがこぼれる。
「ふふ」
「何笑ってんの、怪しいよ」
「別にー♪」
(今年は中井にあげちゃおう!)
それを考えただけで、何だかワクワクしてきた。料理はもちろん得意じゃないけど、頑張ろうかなって、自然
と思えたのだ。
* *
「――すみれちゃん!」
「――…優子さん」
学校からの帰り道は最近はずっと中井も一緒で、二人で歩いてた時に、後ろから声をかけられる。
「ちょうど良かった。会社に携帯忘ちゃって…、洗濯物とご飯のスイッチお願いしていいかな」
「分かった。荷物ももらおうか?」
「助かるわ、ありがとう。……あら、お友達?」
私の後ろで立ってこちらの様子を見ていた中井に気付いたようだ。
「あ、どーも。中井って言います」
「はじめまして、よろしくね。
じゃーすみれちゃんお願い!」
軽く挨拶して、彼女は足早に去って行った。
「……誰?キレイ」
そんな彼女を見送る私に、中井は尋ねる。
「オカーサン。」
「…若くね?」
「ギリだもん、父さんの再婚相手」
中井の事故の一年後のことだから、どっちにしろ彼が知らないのも当然だった。私は静かに説明を始める。
「4年前…?」
「うん。」
その時中井は少しむつかしい顔をしていた。
何でかなんてわからなかったし、私はあまり気にもとめなかった。
「…何で、さん付け?」
「あー、なんとなく、認めたくなくて。優子さんを“お母さん”って呼んだら、お母さんが“お母さん”じゃあ
なくなっちゃう気がして」
意地を張っているだけだって、わかってる。だけど、これだけは譲れない。
「素直に、なれないんだあ―――」
私のお母さんは、空に居るたったひとりだけだから。
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