梅雨の中休み、そっとのぞいた晴れ間の日。私と彼は献花を手に、町外れの墓地へとやってきた。
 
 
 
S U N


 
 
 
 

「墓、どこにあんの?」
「え」
「ご両親のお墓。いつも踏み切り行くのは知ってるけど、ちゃんとした墓は?」
「……町の外れの、墓地。」

 元輝の突拍子のない問い掛けに、きょどりながら私は答えた。
 彼は町外れか…と呟きながら考え事をしてるように見えた。


「そこって、俺も行ってもいい所?」
「……来て、くれるの?」


 踏み切りに花を供えに行く時は、いつからか彼も一緒だった。だけどお墓に連れて行ったことはなかった。
 何でだろう、それはよくわからないんだけど。


「心、いつの間にお墓参りとかしてたんだ?これからは俺も連れてけよな」
「うん、ありがとう」


 “これからは”
 こんな一言に、いちいち嬉しくなる。幸せって、きっと底無しなんだ。






 こうして、私は今、彼と二人で両親の墓石の前で手を合わせている。









「こーゆう時って、何を話しかける?」
「決まってないなあ。いつも、手を合わせてから考えてる気がする。」
「確かにそーだ。」
「一人で声に出しても、怪しいしね」

 私は笑った。元輝もつられて微笑む。
 じゃあ…と、彼はもう一度手を合わせた。



「改めまして、数井元輝といいます…」



 今度は声に出して、彼は話し出した。目の前に居る、二人に向かって。



「娘さんと、結婚させていただきます。必ず―――幸せにします。あなたたちが、出来なかった分まで。」
「――――」


(元輝……)

 一つひとつ、しっかりと彼は言葉を落としてゆく。
 その総てが私は嬉しくて、目頭が熱くなるのを感じていた。


(お父さん、お母さん)


「…私、幸せになるね」



 目を閉じたら、雫が零れ落ちたのが分かった。
 いつの間にか目を開けていたらしい元輝が、私の肩をそっと抱き寄せた。



 幸せ。これ以上ないくらいって思うのに、貴方といると、もっと幸せになれる気がするの。
 なんだか私ばっかりが、もらっててずるいね。


「―――私、元輝にもらってばっかり。何もしてないのに…」
「隣で、笑ってくれてればそれでいいよ。ずっと。」
「…それだけでいいの?」
「うん、そんだけでいーの。」
「…そっか。」




(それは私に出来ること)

 そんなことでいいんだ。それだけで、私も貴方を幸せに出来る?
 ずっとそばにいるよ。いつまでも。
 それは貴方がそばにいてくれるから。










「高校卒業したら、引っ越すかな…今すぐでもいーんだけどさ」
「いつでも嬉しいよ。元輝のご家族にも、挨拶に行かないとね」
「あー、そうだな。今から行く?」
「え……」
「冗談」
「なにそれ」






 帰り道、未来の計画。
 二人で歩く、未来への道の。










2009.07.29
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まさかの番外編の番外編です、まさかの(笑)
本当にコレで終わり…かな。
思い入れの強い作品となっています。
読んでくださってありがとうございました!